世界をつなぐ、日本の文化

  • 2016.07.01 Friday
  • 15:47

3か月ぶりの第43回絆サロンは新しい形式で行った。一般社団法人「鴻臚舎」との合同サロンである。鴻臚舎は文化の分野での国際交流を支援する組織として昨年11月に設立され、実は私がその代表理事を仰せつかっている。この組織には能、琵琶、日本舞踊などの関係者も多く、講演後は琵琶奏者として名高い須田誠舟日本琵琶楽協会理事長の勇壮な薩摩琵琶「川中島」の弾き語りが披露され、80名が参加した会場は盛り上がった。

講演は、「世界をつなぐ、日本の文化」というテーマで私がお話をした。日本の文化が世界中を惹きつけている実情をエピソードも交えて語り、日本文化の役割にも触れた。

以下は、その概要である。 

   

(講演要旨)

外交官40年の生活の中で7カ国に在勤し、出張も含め世界中を行脚して感じたのは、日本人は無意識のうちに文化によって世界の平和に貢献しているということである。日本文化の比類なき多様性と日本人の独特の感性が世界の心を魅了している。

比類なき多様性と斬新さは、古典芸能(歌舞伎、能、文楽などに見られる「かたち」、舞台様式、簡素・幽玄、心情表現等)、書画(絵巻、水墨画、浮世絵、かな書などに見られる独特の構図、視点、余白、流麗さ等)、文学(小説、随筆、俳句、短歌などに見られる情趣の豊かさ、余情等)、工芸(彫金、陶磁器、根付などに見られる緻密さ、ぬくもり、装飾性)、音楽(邦楽の多様さ、音階の独特さ等)、思考・行動様式(禅に見られる「般若」「不立文字」「色即是空」の概念、武士道の「死」への姿勢等)、茶道(「わび・さび」)、生花や盆栽(宇宙観を映す構成等)、庭園(自然との融合)、生活文化(スシ、和食などの食文化、マンガ、コスプレなどの若者文化)などなど、枚挙に暇がないほどである。とにかく、ジャンルが多岐・多彩であり、それぞれのジャンルの内容には欧米をはじめとした諸外国の文化にはない独自性・斬新性がある。それが世界の人々にインスピレーションを与えているのである。いくつかの例をスライドで鑑賞した。源氏物語絵巻の「吹抜屋台」の構図、水墨画として長谷川等伯の「松林図」の描かれない部分の意味あい、葛飾北斎の浮世絵に見られる大胆な構図、剣豪宮本武蔵の枯木鳴鵙図の余白や気迫、蓬莱切・高野切のかな書の美しさなど、その斬新性には目を見張らせるものがある。「また、古今和歌集」仮名序(紀貫之)の「やまとうた」についての記述とそれに関する高階秀爾先生の解説を紹介した。

日本に帰化した著名なドナルド・キーン氏は「日本人の美意識」という著書で、日本人の美意識を考えると浮かんでくるものとして、「暗示、または余情(俳句や和歌にみられる曖昧さ、能楽の暗示表現など)」「いびつさ、ないし不規則性(寺院建築、陶器、書、造園、徒然草の一説など)」「簡潔(茶の湯の例)」「ほろび易さ(徒然草の一節、桜に対する日本人の心情など)」の4つを示し、それぞれについて多数の例を挙げて説明しているが、(元)アメリカ人が観察した日本人論として、とても興味深い。

 

1 2

源氏物語絵巻(吹抜屋台)    長谷川等伯(松林図)

 

3 4      5

葛飾北斎(神奈川沖浪裏)    宮本武蔵(枯木鳴鵙図)高野切第二十巻「東歌)

 

私はこれまでに様々な国の様々な人々から日本の文化を称賛する声々を聞き、また日本文化が海外に与えた大きな影響を見てきた。例えば、戦争後のイラクに出張するたびに現地の首相はじめ経済界の多くの人たちから、日本の企業に是非イラクの復興支援に協力してほしいと懇願された。その理由は、日本の技術力、日本人ビジネスマンの誠実さ、責任感、謙虚さ、納期などの約束を守る姿勢などである。ロシア人やアフガニスタン人の大多数が日本文化に強い関心を持っており、とても親日的である。反日感情が強く喧伝される中国や韓国でも、実際には非常に多くの人が日本の文化が好きで親日的だ。デンマークのような小さな国の地方に行っても、日本の武道や俳句や盆栽、日本庭園に親しんでいる多くの人々に出遭って驚いたことがある。柔道については、アフリカの貧しい小さな国でも粗末な環境の中で嘉納治五郎師範の教える柔道を真剣に学んでいる人々がいた。文化大国と言えるフランスでは19世紀後半から「ジャポニスム」が風靡して、印象派の画家に多大な影響を与えたし、また、日本の懐石料理がフランス料理の革新を生んだ事実もある。カラオケ、スシ、コスプレなどは世界中を席巻し、村上春樹の小説が世界中で人気を博し翻訳されて読まれている。

要するに、他国にない日本文化の多様な斬新性が世界中の人々の心に新鮮なインスピレーションを与えているのである。この素晴らしい日本文化の価値をどう世界に役立てるかを考えることも重要である。これまで、日本文化が自然な形で世界に浸透してきたが、さらに自ら発信する努力が必要である。日本政府の文化関係予算は主要なヨーロッパ諸国や中国、韓国政府の予算に比べて著しく低い。私はかねてより、「ODA 予算」を発展的に解消させて、新たに日本の強みである途上国への開発援助、文化交流、科学技術移転、そして人的交流費用を包摂する「国際協力費(仮称)」を創設し、GDP 0.5%程度を充てるべきであると主張している。防衛費の半分であるが必要なもので、国家の戦略として考えるべきである。しかし、巨額の財政赤字のもとでは聞いてもらえない。

政府とは別に民間レベルでの文化交流を強化することも重要である。私は、柔道、高校生の世界的な交換留学推進、アジアの元日本留学生組織と日本との連携を図る組織の役員の仕事などを通じて、国際交流にささやかながら努力しているが、最近「鴻臚舎」の仕事も始まった。「鴻臚舎」は金春流能の能楽師櫻間右陣先生が推進している能の海外公演を支援するとともに来年はカンボジアの素晴らしい伝統舞踊団を日本に招聘すべく取り組んでいる。昨年は韓国との国交正常化50周年事業で日本の能と韓国の伝統舞踊の共同公演を行い、本年はイタリアとの国交150周年、アイスランドとの国交60周年の記念の能公演をお手伝いする。来年は、デンマークとの150周年、アイルランドとの60周年の記念行事に参画する予定である。海外公演への同行ツアーなどもあり、御関心のある方は「鴻臚舎」にもご参加を願いたい。

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