在韓32年の薀蓄(うんちく)と慧眼(けいがん)

  • 2015.10.21 Wednesday
  • 16:45
 
黒田1  黒田2  黒田3
いよいよ安倍首相と朴大統領の初の首脳会談が視野に入ってきた。ちょうどそんなタイミングで、10月15日、在韓32年のジャーナリストで作家でもある黒田勝弘さんが、「韓国と付き合う法」を語ってくれた。とても面白く示唆に富むのは、嫌韓・反韓の日本の空気の中では見えない視点を多く提示してくれたからだ。いつもながらのわかりやすい言葉で、この人の在韓32年の薀蓄と慧眼が遺憾なく発揮された感がする。
 
(講演要旨)
自分(黒田)が韓国に長く住むことになったのは、共同通信のソウル支局長の仕事が終わり帰国したとき、産経新聞社から、ソウルに好きなだけいていいからと言われて誘われたからでもある。「よく韓国にこんなに長く住んでいられるね」「何が面白いのか」と聞かれることが多いが、韓国での日常生活は非常に面白い、毎日が実に刺激的で飽きないからであると答えている。つまり、ジャーナリストとしてもネタが尽きないのだ。日本と韓国は似ているようで似ていないところが多い。例えば、箸やスプーンを食卓に置くときの方向が日本と違う。あれっと気付く、そんな意外感や異同感がとても興味深いのである。韓国人は、初代統監となった伊藤博文をはじめ韓国統治に関わった日本人には長州出身者が多いせいか、「悪いのは長州だ」という感覚がある。最近の韓国は極端とも言うほど安倍批判が強い。安倍首相が政治家として尊敬する祖父の岸信介元総理も長州出身でその弟の佐藤栄作元総理もそうだ。だからというわけでもあるまいが、実は岸、佐藤両元総理はいずれも日韓関係正常化や韓国の発展に熱心であった。
朴槿恵氏が大統領になった際、自分は安倍首相とはうまくいくのではないかと思ったが、現実は違った。朴大統領は基本的には反日感情はなく日本が好きではないかとさえ思うが、韓国メディアの反日感情が強いことや慰安婦問題を関係改善の前提条件にするというボタンの掛け違いをしてしまったことなどが、今の状況を招いているのだろう。近く日中韓、日韓の首脳会談がある見込みだが、日韓首脳会談が実現したら、次に朴大統領が訪日することが望ましいし、実現可能性もある。朴槿恵氏の父親の朴正煕元大統領は韓国では評価は高く、また、槿恵氏が両親とも暗殺された不幸な人でもあるので、韓国内では政治家として高貴な人として扱われている。従って、これまで政治的業績はないにも拘らず支持率はあまり下がらない。現在訪米中であるが、母の暗殺後はファーストレディーとして大統領である父に仕えた経験もあって海外での振舞いが立派であり、通常外遊後は支持率も上がる。朴槿恵氏の政治家としての特色(「カンバン」)はクリーンさとストイックなところであるが、本人もそれを大事にしている。産経新聞の特派員が告訴されたのも、そのカンバンに疑念を起こさせるようなネット記事を引用してしまったからである。
先般、朴大統領が訪中し、習主席やプーチン大統領らと並んで軍事パレードを観閲したため、朴大統領の対中接近ぶりが内外で注目され、韓国はどこに向かうのかとの疑念や批判を呼んでいる。朴大統領はメディアから「大統領を終えるとき、どのような大統領であったと国民に記憶されたいか」と聞かれて、経済の再跳躍を果たした大統領、南北平和統一の基礎を作った大統領を目指したい旨語ったことがある。韓国は北朝鮮との関係を構築できないので地理的には「島」のような状況になり、これまで海洋国家として国の発展を図ってきた。今後は北朝鮮を動かすため中国の力をかりて新しい政策をとったり、国の発展を中国のある大陸において実現しようとの発想もありうる。
日韓関係について述べたい。日本人は韓国が反日だと思って否定的にとらえ、韓国と付き合う必要はないと思う人も多いが、それは感情論である。国際情勢を考えると、地理的に韓国が隣に存在するのは動かしがたい事実で、付き合わざるを得ない相手である。韓国の存在は大きくなってきているし、慰安婦問題を国際的に喧伝していることなどで日本への影響力も強くなっているので、日本では反韓・嫌韓感情が高まる傾向があるが、放っておいてすむ話ではない。経済や安全保障の観点もある。だから韓国の考え方や行動を知る必要がある。いまの韓国には「安倍はけしからん」との異様なほどの雰囲気がある。その当否はともかく、裏返せば日本に強い関心があるのである。世界の中で日本を一番好きなのは、実は韓国人である。村上春樹の本は世界で一番売れているが、韓国人は「ハルキ・ワールド」に日常的に憧れを抱き、韓国の作家の文体や手法にも大きな影響を与えている。フェリーの沈没事故などがあると、すぐ日本の安全対策が話題になる。韓国でも高齢化が急進行しているが、日本はどうしているかに関心が高まり、日本の健康食など食生活にも注目する。ビジネスでは利益が多いので中国を向くが、学ぼうという姿勢は中国にではなく、日本に向いているのである。日韓関係は悪くはないし、その展望も悪くはないのである。慰安婦問題が国際化されてしまったため何もしないのは得策ではなく、自分は、人道的観点や女性の尊厳の問題という見地から、例えば女性の人権保護のための国際的基金の創設を提案するとか、何らかの手を打つことが大事だと考える。その際には韓国が要求する日本の法的責任の追及などは取り下げてもらうべきだ。何もしないのは国際的にまずい。外交当局間で話し合いが進むことを期待したい。
 
(質疑応答)
Q:請求権問題は日韓政府間で解決済みと合意したのに、韓国は何故蒸し返すのか。
A:韓国国内の状況が変わったことがある。90年代以降の民主化によって韓国社会での国家の権威が非常に後退してきた。女性団体などNGOの影響力が強まり、「国家より個人」という革命的な考えが強まっている。その雰囲気に押されて裁判所の判決も影響を受け、政府もそれに抵抗できなくなっている。日本政府は「韓国はゴールポストを動かしてしまう」と批判しているが、韓国社会ではそのような動きを是としてしまう、国民の情緒が支配している。日本大使館前の慰安婦像設置も違法だが、当局はそれを撤去できないし、しようともしない。法律は国民の情緒より下位にあるような状況だ。
Q:最近の韓国外交の「大陸志向」について、かつて中国に朝貢外交をしていた韓国のDNAが、近年中国の力が強まったことによって「先祖帰り」になったのか。韓国の動きに対しては、慰安婦問題も含め騒ぎ立てない姿勢(benign neglect)がいいのではないか。
A:昔から韓国の事大主義には批判があるが、韓国人は我々は昔の韓国ではないと反論している。朝貢外交は李氏朝鮮時代にはあったが、高句麗は中国と戦ったこともあり「他DNA」もあるとの議論も聞かれる。「騒ぎ立てない勢」をとっても韓国に引き込まれて対応せざるを得ない状況になることもあり、放っておけないこともある。
Q:南北統一に中国の力を借りるとの考えに実現性はあるか。
A:北朝鮮は何を考えているかわからないところがある。中国が統一に賛成か反対かも明確ではない。統一された朝鮮半島が中国に無害であればいいのであろうが、そうなるかどうかはわからない。南北首脳会談の実現はありうる。
Q:日本のマスコミは韓国について問題点をことさら強調する。韓国人は日本が好きだと書いたら売れなくなるのだろう。
A:メディアはもめごとがあった方が売れるのは確かだが、最近の日韓関係についてはネットでの反韓・嫌韓記事が圧倒的に多く、一般のマスコミは極端な反韓・嫌韓は見苦しいと考え、品格などの見地から、むしろそれを抑える傾向にある。
 
黒田さんの話に多くの人が興味を持ち質疑が相当時間を超過したほどだが、「とても面白かった」と好評で、講演後の懇親会も大いに盛り上がった。
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