日中関係を考える:「歴史」への対し方

  • 2015.06.03 Wednesday
  • 21:25


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「戦後70年、『歴史認識』を考える」シリーズ第2回目は、中国のことに詳しい橋本逸男氏に語っていただいた。橋本さんは外務省OBであるが、中国勤務は上海総領事を含め5回に及び、台湾での研修、2度の香港総領事館勤務を入れると8回にわたる中国圏での勤務経験をもつ中国通だ。橋本氏は、「日中関係は日中双方、延いては世界の最も重要な二国間関係である。両国は、これを善く認識し、相手を的確に理解して、関係発展に努めるべきだ」として、日本の姿勢、日中関係全体を平易に分析し、両国がなすべきことを説いた。多くの率直な質問にも丁寧に答えて頂いた。以下は講演と質疑応答の要旨である。
 
(講演要旨)
日本は戦後、反省の上に、大きな努力をし、公明正大な国柄、民主・平和と国際協調の姿勢で高い国際的評価と好感を勝ち得ている。日本は、今後とも、最重要の関係にある中国はもとより、朝鮮半島や世界との関係で、こうした姿勢を続けていくことが大事である。
日中関係、そしてその「歴史」は全体的、総合的に捉える必要がある。紆余曲折を経た両国の二千年の歴史を的確に理解し、将来を見据えて適正な関係を維持すべきである。中国側が「日本は正しい姿勢を」と言うのは正しいが、「正しさ」の主張には主観も伴う。国民性も、政治も関係する。日本側も「歴史」について反省をし、それに基づく誠実で真摯な努力をしてきたつもりだが、先方には、「不充分」と映る。中国の日本に対する異論や「嫌日」の主因は「侵略」にあり、対中戦争が「侵略」であったとの認識に立って、中国側の思いを受け止めたい。「また「侵略」か」、「随分時間が経ったのに」、「くどい」といった反応もあるが、国内でも、会津の長州や薩摩への思いが想起される。「不義の」戦いを仕掛けられた、との思いは、今に残るのである。中国が折に触れて言う「ドイツに比べて日本は!」との論は、ナチス・ドイツと当時の日本の異同、蛮行の程度の違い、もともとの対独・対日感情の違いなどから、不精確な面もあるが、日本はきちんと対応すべき問題であり、「頬かむり」するわけにはいかない。
「歴史」の全体を鳥瞰することは特に大事である。二千年の交流史には良いこともあり、一時の誤りもあった。必然と偶然の要素を弁別して、総合的に把握すべきで、一部のみに注目したり、現政権の利害で主観的に扱ったりすると、両国関係を見る視野が狭まり、未来も見通し難くなる。日中関係を考える「補助線」として日韓関係を見やることもお勧めしたい。誇大な自己意識を離れ、「歴史」を踏まえ、大局から考えることが重要である。尤も、私は、日中関係については悲観していない。
中国の国民性や人々の考え方を知ることも大事である。自国・自分本位なところ、家族や親族を重視する姿勢は踏まえる必要があるが、同時に、性格的に、大まか・大らかで小事に拘らない面、時間感覚の悠遠さなどがある。中国に残された(「侵略者」の子供である)残留孤児たちを養育してくれたこと、「戦犯被疑者」への寛大な措置等も想起される。中国(人)は、日本が中国文明を学んで文明化した「優等生」との意識がある。歴史的に、日本(人)は「小さく」、「重量」は足りないと感じているが、謂われなき軽侮・偏見等はなく、概して高い評価をして来た。昨今の日中関係の中にあっても、日本の良い面は「サクッ」と認める率直さ、大らかさがある。これらの点は、朝鮮半島における事情とは随分違うと思う。中国の、「民度」が上がり、対外開放度が一層進めば、人々の対日理解は増進するであろう。
世界が、日本の戦後の民主化、平和的発展、国際貢献に対して概して高い評価をしているのは、BBCの世論調査等からも明らかである(中国と韓国の評価が例外的に低い。ドイツも低下気味)。日本は、今後とも、公明正大で誠実な姿勢を維持し、世界に貢献してゆくべきであるが、中国(及び朝鮮半島)に対しては、特にそうである。ただ、公明正大で誠実な姿勢は、他者に、事実を的確に捉え、精確な対日観を持つよう働きかけることも含む。事実誤認や誤解、謂われなき偏見等に対しては、冷静かつ客観的に問題提起していくべきである。これまで、政府やメディア、国民はそうした努力を適正に行って来たのか、反省の要があろう。二国間関係に於いては勿論、国際場裏で行われる論や日本への批判等にも、的確に対応してゆかねばならない。冷静に、節度や品位を保って、正々堂々と対応すべきである。
私の日中関係への願いは、日本が、米国ファクターも韓国のことも考えながら、世界の中の日中関係を意識して行動することである。両国間に於いては、夫々の長所短所をそれとして認識し、徒に理想視せず、殊更にこと挙げせず、ありのままの姿で相互理解出来ることである。政府は、国益を求め、国民の為にも良かれとて、時に辞を高くし、「筋」に拘わりもする。しかし、政治関係は「豹変」もする。したがって、国民・民間にあっては、政府間の関係に一喜一憂することなく、また、メディアの報道を盲信することなく、自ら常識的判断を下し、国民間交流が重要との意識を持って関係増進に努力すれば良いのだと思う。
古来、日本は、中国をよく知り、高く評価し、文化・文物を愛しても来た。中国の対外開放や「国際化」にも貢献してきた。中国は、日本が中国にとって重要な存在であることを更に認識して欲しいと思う。
 
(質疑応答)
Q:中国はベトナム等近隣国との関係でも歴史問題がある。中国こそ歴史認識を考えるべきだ。自由に言い合うことが重要。
A:互いに言い合うべきとの指摘は御尤も。「言い合う」環境も大事で、例えば、学者・研究者間で、存分にそれが出来ると良いのだが。政府も「謝罪」ばかりではなく、言うべきことを言う必要があろう。但し、我々は「第三者」ではないので、そうした提起がどこまで説得力を持つかは別問題。また、日本を重視した、故・胡耀邦総書記も述べたように、日本が中国に齎した災厄も、中国史上最大級であったことにも思いを致すべきだと思う。
Q:中国共産党の威信を高めるために日本がスケープゴートにされている面もある。
A:当たっている面はある。対日軍事抵抗の中心は国民党であったとはいえ、「対日抗戦勝利」は、大きな事績だからである。ただ、共産党が、国民の意識、気持ちを顧みず、党利的にそうしている、と考えると正しくないと思う。中国には、家族・親族・縁者が日本(軍)に酷い目に遭わされた、という人々は沢山いるのであり、党の主張はそれを踏まえる必要もある。時により、党・政府は、そうした感情を宥めたり、説得したりすることもある。1972年の日中国交正常化に際してのそうした努力はよく知られている。
Q:辛亥革命を指導した孫文を日本人が支援した事実を中国人は知っているのか。中国は欧州はじめ世界で日本批判を展開している。海外で議論しても日本人は発言もせず負けてしまう例が多い。国際社会を意識して、もっと日中関係の重要な事実を知らせるべし。
A:日本の孫文支援のことについて知っている中国人は少なくはないが、今日それを、全国的に、積極的に教えてはいないであろう。国民党・台湾の側ではよく知られているかと思う。国際場裏でのあるべき努力については、ご指摘に同感である。外交上の広報活動ももっと強化すべきであろうし、日本メディアなども、対応を考える必要があろう。日本人全般についても言えるかもしれないが、適正な論を吐く意欲や知識の度合いが、もう少し強くあるべきであろうと思う。この点は、近年、中国というより、韓国に関し、痛感する。
Q:尖閣諸島の問題で、最近中国側の態度が和らいできている感もするが。
A:日中関係で、先方の出方がより穏やかになったとは感じる。尖閣については、当初中国側は提起しなかったとか、近年は、何かあると大きく取り上げるとか、時代性、時の推移による変遷はあるが、中国(人)は列強から領土を蚕食された悪夢もあり、一旦出した、尖閣自体についての主張は引込めないであろう。日本側が「無策」で、「放置」した竹島とは違い、国際司法裁判所に提訴出来れば、勝訴出来そうだが、中国は提訴に応じないであろう。
Q:インターネットを見ていると、最近中国の反日感情は少し和らいだ感もある。
A:中国では言論がコントロールされている面もあり、代表的な意見が、分り易く出て来るわけではない。しかし、御指摘のインターネットでは、様々な問題について、多様な意見が出ており、全体を眺めるには大変参考になる。日本を貶める意見もあるが、それをたしなめる意見もあるし、日本の美点を率直・素直に称讃する意見も多く、これも、朝鮮半島関係のものとは大きく異なる。皆様、お手すきの際に、ちょっと覗いて見て下さい。最近の状況だと、日本は怪しからんとばかり教えられてきた人が、実際に見聞して、その「差」に驚くことも少なくなく、それは、積もれば、中国側の対日認識、対日言論の変化にもつながるであろう。
Q:中国の中でも沿海部と内陸では経済も文化も相当格差があるのではないか。
A:内陸部と沿海部との経済レベルの格差は10分の1といった指摘もあるが、文化の面では、同じ「中国」文化で、中身的にそれほどの「差」は感じない。しかし、利益を求める行動に遠慮がないこともあり、近年、人々の間の貧富の差が、沿海・内陸間のみならず、沿海都市などの内部でも、拡大しているのは大きな問題である。
Q:中国は新幹線の技術を自国が開発したとして米国で特許の申請をしたらしいが、どういう感覚かと思う。
A:詳細は承知しないが、中国に限らず、そうした問題は起こりうると思う。「特許」は、発明・発見した人ではなく、申請した人が得る権利である。日本人の特許意識は、一般的には必ずしも旺盛ではなく、きちんと申請をしたり、権利の侵犯を防ぐ、といった努力が疎かになる面があるのではないか。また、中国の高速鉄道は、新幹線技術を下敷きにしたことは間違いないにしても、自前の技術を何か加味した面もあろうから、「特許申請」が許されない、ということでもなかろう。勿論、関係する政府当局がどう判断するか、ではあるが。今回のことから、「教訓」を得るとしたら、日本企業側が、そうした問題も適正に判断し、先方との契約、合意などでも、明確にしておくことであろう。技術を他国の企業に合法的にうまくとられてしまうような甘いところもある。
 
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