酒井啓子先生の説く「イスラーム国」と中東情勢の展望

  • 2015.04.12 Sunday
  • 17:58
sakai1  sakai2
324日の第34回絆サロンは満員盛況。酒井啓子千葉大学教授が世界を震撼させている「イスラーム国」(以下、ISと略称)と中東情勢の展望について語ってくれた。中東地域の地図なども用いての説明は内容的にとても分かりやすかったが、今後の展望は複雑であることも理解でき、心理的な不安を抱いて帰路に着いた。以下に、先生の説明をまとめてみた。
 
17日のパリでのシャルリ・エブド社などの襲撃事件に始まった過激派の活動による危機は急速に深刻化している。日本人にも犠牲者が出たが日本人がターゲットというわけではなく、世界全体が暴力の嵐に巻き込まれた状態だ。
一連の事件の真の始まりは、「アラブの春」後の関係国における混乱と政権の事態収拾能力の欠如にある。国内の混乱などのある問題国が「スイッチ」のような状態にあり、ISはそこを狙って火をつけていく。2006年、イラク戦争後に反米機運の強かったイラク西部でアルカーイダ系組織の分派として成立した勢力は、米軍主導で行われた住民とテロリストを切り離す掃討作戦でイラクから追い出されたが、シリア内戦に乗じて拠点をシリアに移して勢力を拡大し、ISを名乗りイラクに舞い戻りチグリス・ユーフラテス川沿いに南下しモスルを陥落させて、ファルージャを陥れた。昨年6月、イラクの一部がISに制圧されたことは世界に衝撃を与えた。IS が目指しているのは「カリフ制」の再興であり、厳格なイスラーム法の支配を目指すが、どのようなカリフ制をつくるかの議論は煮詰まっていない。同じようにイスラーム法の厳格な支配を標榜するワッハーブ派のサウジよりも厳格で、シーア派を異端として認めず、キリスト教会を破壊、古代遺跡までも破壊する。ISはけしてイスラームを代表するものではない。
ISの活動が拡大した背景にいくつかの要因がある。ひとつは、シリアが内戦によって「破綻国家」化したため、ISが権力の空白地点に拠点を築いた。周辺国がシリアの反政府派に資金等を提供したが、ISがその反政府勢力を制圧して武器や資金を接収した。次に、イラク戦争後の復興の失敗がある。軍人を含む旧フセイン体制派がイラク戦争で「追放」されたことに反発して返り咲きを狙ってISに加わっている。さらに、マーリキー政権の腐敗や独裁に反発するスンナ派住民がISを容認している面もある。海外から多くの「兵士」がISに合流する背景には、フランスなど欧州諸国における多民族共存社会形成の失敗がある。イスラーム教では父親がイスラーム教徒であれば生まれた時から自動的にイスラーム教徒になり、棄教は出来ないことになっている。欧米諸国で生活している移民系の若者は就職が出来なかったり社会的に差別されていると感じて居場所を見つけられないでいるが、こういう若者がイスラーム教徒としての自覚を強めるようになり、そこにISが巧みに勧誘し、それに乗っていくのである。さらに、ロシア(主としてチェチェン)、アフガニスタンなどからも居場所を失った活動家がISに合流する。チュニジアやモロッコでも自国の社会経済的状況に辟易した者、あるいはその他の国でも暴力にあこがれる若者などがISに参加していく。
これに対し、周辺国は対米協力で反IS戦線として統一できないでいる。イランやイラクのシーア派諸国は徹底してISに敵対するが、スンナ派諸国はISに脅威を感じても「スンナ派ならISに攻撃されない」との安心感や報復の怖さなどで、さほど敵対しない。大きな問題はシリアに対する対応だ。アサド政権はシーア派のアラウィ派出身で、反政府勢力はスンナ派だが、スンナ派のISを叩くとアサドの延命に繋がることになる。さらに、サウジはイランを最大の脅威と考えており、また、自国内にクルド少数民族を抱えるトルコは、ISに対峙するクルド民族の台頭を望まない。かくして、脅威と感じているISの台頭に地域の国々が統一的に対応できないでいる。
アメリカはじめ複数国がシリアやイラクのISに対して空爆を始めたが、空爆でISを退治できるのか。この点については、ゲリラ組織は逃亡可能であり、空爆で被害を受けるのはISの兵士より地元住民が多くなる。ISの国民や兵士はいつでも海外から入れ替え可能である。結局、世界のいろいろな矛盾や政策の失敗が絡んでいて、空爆での退治は不可能にも思える。米は地上軍を投入できないでいる。もともとの原因を断つような根本的見直しが必要である。
 
講演後の質疑応答が行われたが主要な応答のポイントは次の通り。
Q:サイクス・ピコ協定(第1次世界大戦中に英仏ロシアの間で結ばれたオスマン帝国領の分割を約した秘密協定)がなければ今の状況は変わっていたか。
A:第1次大戦後の様々な矛盾した政策なども原因にある。
Q:イスラームを一括りで見てはいけないが、日本人にとって分かりにくい価値観にはどんなものがあるか。
A:ヨルダンのパイロットを焼殺するようなやり方などはイスラーム教徒としても理解できない行動だ。イスラーム社会は大衆化して伝統的価値観を教えても聞かないような状況になっている。
Q:空爆の影響はどうか。
A:空爆によって、ISの資金源である石油施設が破壊されて財政状況も厳しくなっている、という面がある。
Q:現状の状況がクルド独立に与える可能性は 
A:クルド民族だけが徹底的にISに対して戦っている。それにより、米に恩を売って独立を目指そうとするが、他にも様々な要素があり、果たしてそれが独立に役立つかは不明である。
 
コメント
コメントする








    
この記事のトラックバックURL
トラックバック

calendar

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< June 2019 >>

selected entries

archives

recent comment

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM