「もじれる社会」と若者

  • 2014.11.04 Tuesday
  • 20:37
   honda1   honda0   honda2
今日の社会の中で若者が苦しんでいることについて、教育社会学が専門の本田由紀東京大学大学院教授は近年積極的な論陣を張っている。「もじれる社会」とは、もつれ、こじれる現在の社会を指す言葉だそうで、発刊されたばかりの先生の書名でもある(11月1日付「週刊東洋経済」誌の書評参照)。
10月28日の第31回絆サロンで、本田先生が熱弁を奮ってくださった。用意していただいた豊富なパワーポイント資料は、教育、仕事、家族の三つの分野を繋ぐ三角形の視点で日本社会を分析して今日の若者が遭遇している諸問題を明快にひも解いてくれる。
以下は、複雑多岐な問題に対する先生のお話を、私がごく大雑把にまとめたものである。
 
(戦後日本社会の変化と二つの世代)
戦後の日本社会は、高度成長から安定成長に移る1972年前後およびバブル崩壊の1991年の前後を境に大きく変化した。生活保護世帯数、失業者数、大学等進学率、産業構造、その他の社会指標は、特に後者の変化が顕著であったことを物語っている。戦後の1947年頃生まれた団塊の世代と、その子供たちである1972年前後に生まれた団塊ジュニア世代のライフコースはそれぞれ、この社会変化から大きな影響を受けている。
高度成長期から安定成長の時代にあっては、「戦後日本型循環モデル」が極めて順調に機能した。政府の産業政策が奏功し、正社員を中心とする雇用は長期安定し、年功賃金も有利に働いて家計を向上させた。家庭では母親が中心になって高い教育意欲のもとに教育費を積極的に投入していたことにより、教育に対する公的支出の少なさを家計が補っていた。一方、教育が生み出す新規労働力は新規学卒一括採用などに反映される旺盛な若年労働力需要を満たした。
しかし、それまで太い柱で繋がれうまく組み合わされて上昇してきた教育、仕事、家族の関係は、バブル崩壊の90年代以降は破綻してバラバラになって来たのである。財政赤字もあり、セーフティネットも切り下げられ、経済成長率の低迷により賃金や労働時間が劣悪化し、非正社員が増加し、貧困に耐える個人も増加した結果、家庭での教育費支出や教育意欲も衰え、家庭間格差も拡大した。若者の中には離学後に低賃金で不安定な仕事につかざるを得ない層が増大した。その結果、現在では国際的にみても日本は富裕層と貧困層の格差や貧困率などで他の先進国に比べて相当劣っている。従って、今日の若者の苦境は彼ら自身の甘えなどによるものではなく、社会構造の変化から来るものである。
(仕事の現状)
循環モデルが破綻した現在の状況では、正社員の比率が減少し、非正社員が増大した。正社員でも「ジョブなきメンバーシップ」が生み出す長時間・過重労働の問題があり、心身を病む者も増加している。非正社員は「メンバーシップなきジョブ」で雇用の不安定さ、低賃金、手薄い教育訓練などに苦しめられている。
(教育の現状)
 成長期には「学力」という基準に基づく選別と自己選別が強固に存続して循環モデルが機能した。90年代半ば以降は「人間力」「生きる力」などの基準も加わるが、学校での習得は保証されずに家庭の経済力に左右されて格差化が進み、不安が増している。現在の生活や将来の仕事に意義・有用性を持つ具体的な知識やスキルを形成する教育は少なく、若者の学習意欲も低下している。国際的にみると、教育内容では日本は先進国の中で普通科に著しく偏っているし、企業の曖昧な採用基準などの問題からマッチングが非効率であり早期離職も多い。学業終了時の若者は十分な職業的準備もできないまま、いわば「赤ちゃんの状態で」社会に引き渡されることになっている。学卒一括採用から漏れた者への支援も手薄である。若者の就活自殺も増加傾向にある。
(家庭の現状、若者の意識)
高度成長期から90年頃まで、企業の安定雇用と年功賃金もあって、家庭は父母の性別役割分業を前提として子世代と高齢世代の扶養を担ってきた。仕事・家族・教育の間に密接な循環が成立していたが、90年代以降は正社員の過重労働、非正社員の低い賃金などによりこの循環が崩れ、格差や分断が拡大し、家族内の役割分担の混乱や合意の崩壊が起きている。家庭の経済力が学力や進学に影響を与え、仕事の内容や賃金レベルから家族を持てない若者も増えている。
こうした中で若者の意識調査を見ると、日本では諸外国に比し自己を肯定的にとらえる者の割合が低い、憂鬱と感じる者の割合が高い、意欲的な取り組み意識や規範意識が低い、社会参加意識・家族といるときの満足度・友人関係や学校への満足度なども相対的に低い、将来への明るい希望も低いなどの問題がある。早く結婚して自分の家庭を持ちたいと思う意識は欧米諸国と比較して相対的に高いが、40歳になったときに、結婚している、子供を育てている、というイメージを持っている者の割合は相対的にやや低い。
(どうしたらよいか)
こうした状況は深刻であるが、新たな循環モデルを作ることが重要である。そこでは、NPOや社会的企業を含めてジョブ型正社員を増大させ、ワークライフバランス改善や男女共同参画等を通じて家庭と仕事を両立可能にすること、教育面では学校を保護者や地域に開かれたものにしていくこと、学校が家族へのケアの窓口になることが重要である。また、教育の職業的意識、リカレント教育を強化することなどが重要な要素である。これらによって仕事、家族、教育の間に強固で双方向の新たな柱を築いて繋いでいくことである。政府には職業訓練などのアクティベーションやセーフティネットの構築などが期待される。
 
講演後、参加者の中で最も若い29歳の男性が感想を述べた。大要、「自分は日本の社会で朝から晩まで働いたがやりがいを見つけられず、将来の生きる道を模索するためインドネシアなどで柔道などを教えながら生活をしている。日本では随分落ち込んだりしたが、アジアで生活してみて自分の生きる意義や価値が少しわかり、幸せ感も持てるようになった。先生のお話を聞いて、自分が日本でうまくいかなかったのは自分だけの責任ではないということも感じて、救われ勇気づけられた」という趣旨だったかと思う。
私自身、先生のお話を聞いて、今日の社会の問題の深刻さと課題の膨大さに胸が締め付けられた。単純に今日の若者に覇気がないと批判することは間違いであり、家族・教育・仕事の面から社会の構造問題を知って若者に寄り添い、「もじれる社会」を変革することが重要であるということに気付く。それでも、新たな循環モデルを創ることは決して簡単ではない。そうであればこの問題についても政治の指導力が極めて重要である。「女性が輝ける社会」など安倍政権は果敢に新しい政策を打ち出しているが、もうひとつ、「若者が希望を持てる社会」をつくる政策も強力に打ち出してもらいたいものだ。
その観点から思いつくのは、私が在勤したデンマーク社会の仕組みである。デンマーク社会は今日の日本社会の対極のようにうまく機能している。学校における幅広い職業教育や離職後の手厚い職業訓練による転職の容易化、原則無料の教育費などはもちろん税金で賄われる。税金が高くても世界一の幸せ感を持つデンマーク国民には、「高負担、高福祉」の制度に国民的コンセンサスがある。残業のない職場、家族が一緒にいる時間が極めて多く男女協働で家事育児に携わる生活などは、出生率を高め、女性の就業率の高さに貢献し、それが国家の税収増にもつながる。日本では真似のできないことも多いが、税金の役割やワークライフバランスについては参考にできることも少なくない。
コメント
コメントする








    
この記事のトラックバックURL
トラックバック

calendar

S M T W T F S
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930    
<< April 2019 >>

selected entries

archives

recent comment

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM