ウクライナ情勢の背後に多くの要素が

  • 2014.06.02 Monday
  • 21:09
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 ウクライナでは5月25日に大統領選挙が行われたが、その後の情勢展開の見通しも複雑である。第28回絆サロンは、河東哲夫元ウズベキスタン大使(Japan and World Trends 代表)にウクライナ情勢の背後にある「やぶの中の真実の見つけ方」を教えてもらった。大統領選の2日後の絶妙のタイミングとなって、多くの人の関心が高まった。
河東氏は外務省のOB であるが、旧ソ連・ロシア、ウズベキスタン、タジキスタン、米国、ドイツなどの勤務経験もあり、今でもユーラシア地域をはじめ世界各地を歩いている。国際情勢にとても詳しい方である。
ウクライナ情勢は単にウクライナ一国の問題ではなく、歴史的、文化的に複雑な背景をもち、その動向は国際関係に大きな影響を及ぼしている。河東氏はまさにそこを多角的に詳しく分析してくれた。講演の最後の部分で、日本はウクライナ情勢や北方領土問題にどう対応すべきかについても貴重な示唆をいただいた。私を含め参加者が「とても勉強になり面白かった」との感想を持った。以下はその要約である。
(講演要旨)
いま世界各国では、自由や民主主義が相対化したり、教育水準低下に伴う「個人」の知的水準の下落、さらには政府のガバナンス能力の分解、市場経済の成長力の下落など様々な変化があり、「意味が解体する世界」の様相を見せている。現在のウクライナ情勢は、国家とは何か、自由や民主主義とは何かがよくわからなくなっていることを示す、ひとつの典型である。ユーラシアの文脈で見ると、今日のウクライナはスラブ、ゲルマン、スキタイなど諸民族の間の長い相克の歴史の僅かな短い瞬間の出来事ともいえる。この地域は、バイキング・ロシアの故地でもあり、キエフはかつて彼らの建てた共和制都市国家であった。現在のウクライナは、ウクライナ語とロシア語が併存し、西部の穀倉地帯や東部の工業地帯を擁している。東部は特にロシア軍需産業の一部を支える重要な地域だ。1991年旧ソ連邦が崩壊したことにより、今のロシアは人口がソ連時代の3億人から一挙に1.4億に下がった。帝国の崩壊とも観念され、プーチン大統領は「ソ連崩壊は世界の悲劇」と言っている。
帝国的なものが崩壊すると、独立を獲得した周縁部は「力の真空地帯」と化し、周囲の大国による勢力争いの場として不安定化しやすい。ブッシュ時代の米国はソ連圏に属した東欧・中欧、そしてソ連の一部だったバルト三国にまでNATOを拡張し、グルジア、ウクライナ、モルドヴァにまでNATOを拡張する構えを見せたことで、2008年8月ロシア軍のグルジア侵攻を招いた。
その後オバマの米国は、ウクライナにそれほどの関心は見せていなかった。但し後に述べるように、米国のNGOは米国政府とは別に、ウクライナを「民主主義化」する運動を積極的に行っていた。他方EU諸国は、「東方パートナーシップ」構想の下、ウクライナ等と連合協約(FTA等)を結ぶことで、EUの経済的利益を追求しようとした。他方ロシアは、プーチン大統領が旧ソ連のまとまりをせめて経済面だけでも復活させるべく、「関税同盟」を既に形成し、これを「ユーラシア経済連合」へと発展させて、これにウクライナを入れるべく画策してきた。
このような力学の中、ヤヌコーヴィチ前大統領は、EUとロシアを競り合わせ、その中で最大限の利益を引き出そうとする政策を取ったのである。彼はEUと連合協約を結び、その代わりにIMFから大規模の融資を引き出そうとしたのだが、プーチン大統領から圧力を受けて、EUとの連合協約を署名の直前、キャンセルしてしまう。これに怒ったキエフのリベラル層が大規模な反政府集会を続け、これを「右翼」と呼ばれる撥ね上がり分子がエスカレートさせ、暴力対立に持って行ったのである。2月23日、ヤヌコーヴィチ大統領は国を脱出して、ロシアに逃げ込んでしまう。
こうした一連の出来事を、「ロシアと米・EUがウクライナを取り合っている」と見るのは、単純化が過ぎる。実際には、「国」というものは一つだけの意志を持って動くものではないからだ。今やシャーベット状になったウクライナの主な役者は、寡占資本(オリガーク)のコントロール下のグループ(ヤヌコーヴィチ前大統領、野党、右翼)、西部の反ロシア勢力と東部のロシア系住民(この中にもロシアと一緒になるのを嫌う者が多数いる)、さらには米大使館、CIANGOなど軍事力を使わずに民主主義を広めようと活動するグループがあるが、それぞれのグループの中も一枚岩ではない。
2月の政変でヤヌコーヴィチが議会により解任されたたことについて、プーチンは西側に騙されたと感じて強い不満を持ち、3月には電光石火の早業でクリミア半島を併合した。その頃から東・南部の親ロ分子は政府施設を占拠し、5月11日には「独立」をめがけての住民投票も強行したが、キエフ政府にはこれを鎮圧する能力はない。ロシア政府も東・南ウクライナを背負い込むと政治的・経済的に大きな負担となるので、武力侵入する気持ちはない。欧米は対応を巡り、割れている。かくて膠着状態が続くであろうが、当面のシナリオはどうなるだろうか?
基本的には、新政権(寡占資本)、EU、米、ロシアの間で、事態の収拾、安定化に向けての取引が行われることになるだろう。この中でロシアは、NATOとの緩衝地帯をつくり東南部の兵器産業を維持するため東・南部の実質的独立を可能にする国家連合を狙うだろうが、西側はせいぜい地方自治強化を認める程度であろう。妥協は可能かもしれないが、中間選挙を控えたアメリカの立場や双方の跳ね上り分子の行動などリスク要因も少なくない。今後、新政権が東部ウクライナの親ロシア勢力を武力で鎮圧する挙に出れば、ロシアは上述の取引のための足掛かりを失ってしまうので、義勇兵的勢力を送り込んでくるだろう。その場合、米国は傭兵会社等を通じて新政権を支援するだろうから、東部ウクライナでしばし内戦的状況が生ずる可能性もあろう。
ロシアとの話し合いにおいては、ウクライナがEUと連合協定を結び、ロシアはウクライナと関税同盟を結ぶことで、ウクライナを東西の架け橋とする可能性も考えられる。しかし、この方法ではロシア企業にとってEU企業と同等の条件でウクライナで競争することを意味し、経済力で劣るロシアはそれに耐えられないだろう。
では、「新たな冷戦」が始まるかというと、それもないだろう。現在のロシアは旧ソ連ほど拡張的ではなく、西側への依存度も大きい。西欧の方も、ロシアのエネルギー資源は不可欠であるし、金融取引の制限をすると対ロ貸越しが多い西欧の銀行が損失を被ることになるので、無暗に対立したくないからである。だから、制裁強化も結局は難しい。
また、米国が中国と対抗するためにロシアとの関係をリセットする可能性もある。他方で、ロシア自身の体力や国内的安定性の問題もある。ロシアはウクライナ問題で西側と対立している今、国内の政治やビジネスで締め付けを強化する可能性がある。すると頭脳流出が起き、国の発展を阻害する。また経済が悪化すると、編入したクリミア住民ばかりを賃金引上げなどで優遇することに対するロシア国民からの反発も出てこよう。ロシアはモザイク模様の多民族国家なので、極端な場合には分裂の可能性もある。ロシア社会には、貧しい大衆と中産階級・知識階級の相互憎悪という基本構造もある。ロシアは簡単には崩れぬ国であるが、こうした状況を考えると今後は、事態は西側先進国側に有利に展開する公算が高い。
こうした中で、米、中国、ロシアの大国に挟まれた日本はどう行動したらいいのか。無駄な勢力争いは避けて、「現状を武力で変更することは許さない」との立場に立って、これを日米同盟と自主防衛力で担保する道を探るべきだろう。米国は日本を同盟国として必要としている。日米同盟は双方にとって重要なのである。また、東アジア(日中韓とASEAN)と米国の間の経済共生関係を維持発展させことも重要だ。今日、東アジアは一体の生産構造を構築し分業体制が進み、日本は良い位置にあるからだ。もっとも、経済が進むと国家が不要になるというわけではない。国境を撤廃し、入国の自由を認めれば、割の良い仕事の多くは外国人に席巻されてしまうだろう。日本語で仕事ができ、日本語で有利な仕事につける環境を維持することが、現代の主権国家の任務となっている。
話しをロシアに戻す。日ロ関係については、中国に対抗するためにロシアの好意を得ようとして、そのために対米関係を犠牲にするようなことをしてはならない。中国東北地方に比べるとロシア極東地域はきわめて弱く、共に中国に対抗するような力は持っていない。従って、ロシアの歓心を得るために北方領土を諦める必要はない。クリミアと同じく、武力による国境変更には反対であることを言い続け、解決を焦らないで粘り強く交渉していくべきだ。経済関係では是々非々で対応して行けばよい。
日本は、技術力もある。世界のガバナンスについて前向きな対処を世界に提言していくべきで、来年の終戦70周年は好個の機会である。
 
 
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