柔道の本質と今日の問題、山口氏が明快に分析

  • 2013.02.12 Tuesday
  • 10:25
   

  

 第18回絆サロンは2月5日、柔道の問題を取り上げた。講師は日本女子柔道界の草分けで柔道の諸問題に鋭い論陣を張り改革論を唱える山口香筑波大学大学院准教授。おまけに、柔道日本女子代表選手への暴力・パワハラ問題が浮上した最中の、予め図ったかのようなタイミング。会場は満員となった。

 山口さんは、嘉納治五郎師範の唱えた柔道の本来の目的から説き起こし、今日の日本柔道のどこが問題でどうすべきかを、ユーモアを交えながら鋭く、かつ明快に指摘した。

 以下はその要約である。

 

(講演要旨)

 「先日来世間を騒がしている暴力事件の問題が発生する前にもう少し早く気付いて止められなかったことを柔道界の一員としての自分も反省している。しかし、こうした問題がある以上、これを機会に膿を出して、諸問題を改革するため努力したい。

 1964年は東京オリンピックで柔道が取り入れられた年だ。当時は日本が世界に伍してどう戦っていくかという時代にあり、日本人はスポーツに象徴されるように根性や我慢を持って物事に対処し成功を収めた。豊かな社会になった今日、スポーツへの取り組みも変わってきた。依然として厳しさは必要だとしても自発的でクリエイティヴな取り組みが求められる現代だが、日本柔道界はまだ変わりきれていない。

 今日の柔道界の問題を考えるうえでキーワードとなるべきは、Open mind(柔軟な思考)と Respect(相手への敬意)である。競技柔道が先行する近年、今一度柔道の原点に戻るために、このキーワードが必要である。

ここで柔道を創始した嘉納治五郎師範の教えを振り返ってみたい。小柄で病弱でもあった嘉納師範は、相手を倒すことが目的でもあった柔術に安全への配慮もしながら受け身を教え、技や指導法を理論的に体系化し「柔道」とした。また、身体で覚えることも重要だが頭で考えて理解することも必要との立場から、形、乱取に加えて講義と問答の4つをもって柔道の修業とした。そして、術を目的とするのではなく、術を手段として行う人間教育の道として柔道を位置づけた。

今日の日本の柔道はこの教えを受け継いでいるだろうか。なぜ教えるのに殴るのか。理屈を言葉で説明できない指導者の短絡的な行動といえる。強かった人が今日の日本の柔道をリードしている。自分が強かったから、「俺の言うとおりにしろ」という姿勢になってしまう。指導する相手にrespectを持っていたのか。指導法に関してopen mindがあったのか。

 メダルをとった人は強い人であるが、その時点で人格的にも完成されているとは言い切れない。また、強くなかった人でも柔道を愛し、指導者として愛好家として続けている人は大勢いる。つまり、強かった人間が偉いわけでもなく、どちらかと言えば強くなかった人たちに柔道は支えられているといっても過言ではない。強かった人こそが、そういう人たちをrespectする気持ちを持たなければならない。海外でも200の国・地域で柔道を真剣に学んでいる。そのお蔭で世界の柔道が支えられている。そういう人たちを日本はrespecしているだろうか。日本柔道界は閉鎖的で視野が狭いところがあり、柔道界の常識は世間の非常識とさえ言われる。強かった人だけの集団は競技偏重になりがちで、アイディアも枯渇しよい考えが出ない。女性、障害者、有識者、あるいは外国人も含めたような外部の人を入れることが重要だ。そうすれば価値観が多様になる。

 今回15人の女子選手が訴えたことは勇気のある行動だ。柔道を通じて得られるものに強い者に立ち向かう勇気、「なにくそ精神」がある。男子は行動を起こせなかった一方で、彼女たちが成し遂げた行動には大きなものがある。15人を守れるか否かは我々先輩の試練でもある。嘉納師範の求める柔道を生かした世の補益には、自立と自律が重要だ。自発的な行動こそが成果をもたらす。指導者が目指すべきは、選手が自分を律しつつ自発的に動くよう指導することだ。人を育てるにはやらせてみることで、失敗から学べば成果につなげていける。全柔連は選手の自立、自律を促すような環境を作ってきただろうか。

 講道館はどうであろうか。全柔連会長と講道館館長が同一の人物が務めていることも問題だ。同じ人がやっているから、今回の全柔連の問題について講道館は何一つ声明を出していない。競技力向上と人間教育を同じレベルでは語れない場合もある。指導者は子供たちの未来にも関わっている。講道館と全柔連のトップを分離し、それぞれのミッションを明らかにすべきである。

 日本柔道に必要なことは、指導者が嘉納師範の理念を今一度正しく理解、共有し、open mindrespectの精神で臨むことである。」

 

 山口先生の話に約60名の参加者は熱心に耳を傾け、頷いている人が多かった。柔道経験者とそうでない人の割合はほぼ半々ぐらいであったが、質問のトップバッターは柔道をしていない女性であった。他の質問者も含め、会場から次のような意見や質問があった。

(1)柔道には素晴らしいものがあることが分かった。しかし、金メダルでないとダメというのはおかしい。努力して勝ち得た他の色のメダルでも大きな拍手を送りたい。

柔道でも音楽、その他の教育でも苦手なものを繰り返しさせることも大事だが、それよりも好きなものをさせて自信を持たせることが重要。

理事も含め女性が柔道界でもっと役割を果たすべきだ。

(2)自立、自律の重要性に同感。何事も改革をしようとするとしばしば反対の大合唱が起こる。柔道も国民の多くが改革を後押しすべきだ。社会に問題を知らしめる必要がある。女性の方が勇気がある場合が多い。

(3)日本が国際柔道連盟(IJF)を主導していないのはなぜか。

(4)今日の柔道界の問題は稽古の過程で「講義」や「問答」が欠けているとの指摘に同感。他にも、柔道が商業化し、段位をとるのに高額な金額が必要という問題がある。

(5)講道館と全柔連のそれぞれの役割や存在意義をどう考えるか。高額な段位は集金マシーンにもなっている。どういう形が望ましいか。

 

山口さんは、これらの意見に概ね賛意を表しつつ、「柔道界で女性役割を高めるには男性がそれを推進しないと実現しない」、「IJFは欧州諸国が作ったものだが、日本は国際的にもっと発信しなければならない」、「段位取得に筆記試験や面接を入れ受験料を下げることにより、段の価値を上げることが考えられる」、「講道館が真に世界における柔道のメッカとなるよう世界に発信し、また外国人も温かく迎えるよう開かれたものになるべきだ」などと答えた。

講演後、多くの人が山口先生を囲み熱心な議論を続けていた。男性が先生を独占しそうな状況に女性陣も負けずに入ってきて意見交換を続けた。先生が食事をとる暇がなかったのを申し訳なく思っている。
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