今年の日本外交を左右する重要なポイントは? 東郷和彦教授の斬新な視角

  • 2013.01.20 Sunday
  • 19:11
   

果敢に動き出している安倍新政権。昨年指導者が交代した中国とロシア、間もなく初の女性大統領が就任する韓国。緊張が続く日中関係。外交の力が落ちていると指摘される日本。「強い外交」をめざす安倍首相は、世界の荒波の中で日本をどう引っ張っていくのか。そんな思いを込めて、本年最初の絆サロンに東郷和彦京都産業大学教授・同大学世界問題研究所長をお招きして語ってもらった。東郷氏にお願いしたのは、単に同氏が私の大学入学以来の親友で外務省でも「同期の桜」であることだけが理由ではない。和彦さんは、外務大臣の祖父、外務次官、駐米大使を務めた父をもつ外交一家で育ったが、自身も外務省の条約局長、欧亜局長、駐オランダ大使などの要職を歴任した経験豊富な元外交官である。何事にも物凄い情熱をもって全身全霊で取り組む性格は今でも変わらず、外務省退官後は国内外で教鞭をとり、多くの著作や海外を含めたメディアを通じて積極的に発信している。そんな東郷氏が、今年の日本外交について重点を絞り幅広い視野から明快に所見を表明した。長い外交実務経験と不断の研究や分析に基づくもので、通常のメディアには表れないものがあった。80人近い聴衆が熱心に耳を傾け、講演後の質疑応答も白熱するほどだった。

 以下は私がまとめた講演要旨である。

 

「小泉総理以降7回目の首相となる安倍総理にもう失敗してほしくない。そういう思いをこめて、私(東郷教授)は先般CSIS(米国のシンクタンク)のパシフィック・フォーラムとオーストラリア国立大学の東アジア・フォーラムに「安倍外交は良いスタート切った。」という以下のような内容の投稿をした。

(1)総理はナショナリストではなく現実主義的である。第一次安倍内閣の外交面を支えた谷内正太郎氏(元外務次官)を内閣官房参与に、兼原信克氏(外務省国際法局長)を内閣官房副長官補に任命して良い外交支援チームを作った。

(2)強い姿勢を示しているが実際には、中国に対しては抑制された対応を示し、自衛力と日米同盟の強化を目指している。韓国に対してはすでに額賀特使を派遣し、朴新大統領訪日を招請する。選挙公約で述べた政府主催による「竹島の日」の実施は当面行わない。プーチン大統領とは電話会談を行い、森特使(元総理)を派遣する意向である。

(3)こうして、対中、対韓関係をコントロールしつつ日米関係を強化し、ロシアとの関係にも力を集中する、これができれば一年後の日本の外交力は格段に上がるであろう。

 このように書いたが、実際にそうなるかどうかは分からない。対中国、韓国、米との外交がうまくいくか、ここで失敗すると、今まで一度も経験したことのない大惨事になるかもしれない。ロシアについても、今年中に突破口を見いだせなければ、大きな機会を失することになるかもしれない。それを見るうえで重要ないくつかのポイントがある。

 第一は中国の出方だ。諸情報によると、中国軍と党の幹部には日本に対して恐ろしいほどの主戦論的な雰囲気があり、対日協調論は排斥される傾向にある。日本はどうすべきか。ある程度実力で対応するために防衛費を増やし集団的自衛権の行使も可能にすることは正しい判断だが、これだけを実行すると緊張が増大するのは必至だ。他方で対話を強化することは不可欠で、安倍氏は必ず訪中すると思うが、その場合「領土問題は存在しないのでこれについて話すことはない」との立場も変わらざるを得ないだろうし、根回しで道筋をつけることも必要だが、うまくいくかどうかは分からない。

 中国との関係で日米同盟がどう機能するか。尖閣諸島をめぐって対中関係が緊張したら必ずアメリカは出てきてくれるか。そのための必要条件の一つは、日本が尖閣を守るために自分でできることをすることだ。もう一つは、米は尖閣問題で紛争が起こることを望んでいない。日本が我慢を重ね慎重に行動することである。自民党の選挙公約にある尖閣への公務員常駐を実施すれば、米や第三国にとって日本の挑発と映るだろう。

さらに、日本がアメリカにとって守る価値のある国かどうかが根本的に重要な要素だが、この関係で慰安婦問題に充分気を付ける必要がある。慰安婦問題は日韓間で長年争われていて、それが他の国、特に米国の注目するところともなっている。国連では「性奴隷」の問題として日本が非難されている。米国でもマイク・ホンダという日系人のキャンペーンもあり下院アジア太平洋委員会で対日非難決議も成立してきた。

安倍氏は前回の首相時代に慰安婦問題について「狭義の強制性」を否定する発言をしたが、これがニューヨーク・タイムスなどで「慰安婦問題の否定者」として大々的に報道された。アメリカ人にとって慰安婦問題は、現代の視点から見て許せない「性奴隷」の問題であり、「性の平等性(gender equality)」や「人道に対する罪(crime against humanity)」だと認識されている。アメリカ人にとって安倍氏のこのような姿勢は weird(気味が悪い)と写る。自分(東郷教授)はアメリカ世論の激しい批判が噴出したこの時、カルフォルニアのサンタバーバラの大学におり、たまたま、歴史問題のセミナーを主催したが、細かい点での議論や反論は全く通じない。日本人の有志が米紙に反論の全面広告を出したが、これは完全に逆効果となり、歴史上初めて下院本会議の反慰安婦決議採択のきっかけになった。慰安婦問題は日韓問題だが、半分以上は日米間の価値観の問題でもあることを知らなければならない。安倍首相はこの問題で間違いを起こすと、米国民やオバマ大統領の尖閣問題に関する対応姿勢にも大きな影響を与えかねない。

今年の日本外交のもう一つの重要問題、北方領土問題に触れたい。この問題は戦後以来の問題であるが、1985年にゴルバチェフ氏がソ連共産党書記長に就任して以来、28年間に解決に向けたいくつかの「機会の窓」があった。1992年にはロシア側が平和条約締結前にも歯舞・色丹の2島を返還し残りの択捉・国後については協議を続けて四島で平和条約を結ぶという非公式提案を出したが日本側が拒否してしまった。その後いくつかの経緯があったが、2010年にはメドベージェフ大統領の国後訪問もあって最悪状態になった。ただ、2011年9月にプーチン氏が大統領選に再出馬することが伝えられて以来、ロシア国内の日本への雰囲気は温かくなっている。12年3月、朝日新聞の若宮氏のインタビューを受けたプーチン大統領は領土問題解決の仕方について「引き分け」を示唆し、両国の外交実務者に協議を継続させるため「はじめ」を指示しようと述べたが、これは重要なメッセージである。

ロシアにとって、強大化する中国との関係やアメリカの「シェールオイル・ガス革命」がもたらす自国産の石油への悪影響もあり、プーチン大統領は日本との関係を良くしたいと考えるようになっている。1992年に比べ日本とロシアの相対的力関係がロシアに有利に変わってきている今日、92年ですらロシア側が絶対に合意しなかった4島一括を呑む可能性は全くない。ロシアは日本の経済力、技術力を必要としている。安倍第一次内閣時代の麻生外相は国会で面積等分論による解決策を述べ、当時の安倍総理は異論を出していない。ハイリゲンダム・サミットで安倍総理が出した「極東東シベリア開発協力計画」はプーチンの現在の政策にぴたりと合致する。安倍総理の父親の安倍晋太郎氏は自民党幹事長時代に日露関係進展に尽力した。元島民の方々は、自分たちの世代が元気なうちに、できうる限りの成果を求めているのではないだろうか。

他方日本には、「4島一括」でなければ結局国後択・捉を完全に失い、それは正義に照らして許せないという強い議論がある。対ロシア不信を基礎とするこの議論には理由がある。けれどもその結果、予見される将来、機会の窓が完全に閉まり、結局は何も変化しないということでいいのか、皆さま一人一人が、自分の問題としてよく考えていただきたい」

質疑応答の中で、東郷氏は、中国は日本と戦争することで不利益も蒙るであろうが、尖閣諸島の実効支配の実績造りの手を緩めない。戦争も辞さない構えであり、中国の意図を軽視すべきではない旨述べた。

 

以上が、講演の概要であるが、講演後のビュッフェ懇親会では、時間を超過して話の輪が広がった。参加者が「普段気が付かない事実や重要なポイントを指摘してもらった」などと感想を述べていた。同氏を選んだことに内心「してやったり」の思いである。

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