聴衆を惹きつけた岡本行夫さんの話

  • 2012.05.16 Wednesday
  • 19:58
   

 第12回サロンは、外交評論家の岡本行夫さんをお招きして大盛会であった。

岡本氏は私の外務省での同期生で親しくお付き合いさせていいただいているが、同氏の言動を常に見てきた私は氏に畏敬の念を抱いている。「外交評論家」として世間の多大な評価を得ているが、それは彼のほんの一面に過ぎない。物事の本質を見て、素早く幅広く行動する。国内外を東奔西走する、その原動力は信念と情熱であり、それが岡本行夫の真骨頂である。だから、彼は橋本総理(当時)から首相補佐官に任命されて沖縄問題で総理を補佐した際には、沖縄を何十回と行き来し県内の市町村長や島民と膝を突き合わせて話し合い、一緒に泡盛を呑んで沖縄の歌を歌い踊る。沖縄の気持ちを心に入れて解決策を探り総理に進言する。小泉総理にも見込まれて首相補佐官をつとめ、今の政権でも時には助言を求められるようだ。イラク戦争が起これば、いまは亡き現地の奥大使とも連携して行動し、神戸の震災や東日本大震災の直後から現地を行き来して復興に奔走する。東日本大震災の後いち早く現地に赴き、東北漁業の早期再生のため独自のプロジェクトを立ち上げた。政府の支援に時間がかかるのをみて、幅広い人脈を活用して企業を走り回り多大な支援金を集め、いまも漁業者の立ち直りを支援している。

 そんな岡本氏に「日本はこの危機を乗り越えられるか」というテーマで講演をお願いした。幅広い自らの行動を基礎にした岡本氏の話には説得力があって面白い。用意してくれた200枚ものスライドのいくつかを見せながらの話は迫真的で臨場感もあった。随所に出てくる岡本氏ならでは逸話や意見に眼を啓かされ、政府の対応についての現場に立っての批判にも納得する。非常に多くの人が感銘を受け喜んでくれた。

 時間が足りなかったのが惜しかったが、以下に私の解釈も交えた要約を試みる。

 

(岡本氏講演要旨)

 東日本大震災後には現地で感動的な多くの人々に出会った。被災者の忍耐強さや他人を思う心、自衛隊や2万人規模の米兵の献身的な活動等々。「トモダチ作戦」に従事した米軍の支援を見るにつけ、日米同盟の重要さをあらためて痛感し、「アメリカに依存し過ぎ」との考え方の非現実性をあらためて指摘せざるを得ない。多くの人々の努力にかかわらず、復興の槌音はまだ聞こえない。新たなコンセプトでの「復興」を重視するあまり、スピードが必要な生活・生産の「復旧」が遅れている。個別の被災地の状況に合った支援を考えるべきだ。自分(岡本氏)は一にスピード、二にスピードが必要と考えて、漁業者の早急な生活立て直しのために「希望の烽火」プロジェクトを立ち上げた。企業を走り回って多額の寄付と資機材の支援をいただき、コンテナーを改造した冷蔵・冷凍設備やフォークリフトなどを東北沿岸の漁業者に提供してきた。これを受けた漁民は様々な創意と工夫で自らデザインし設備を改善した。それを見て日本の現場力は凄いと再認識した。

原発については現実の発電量を見ると、一気に全部停廃止して新エネルギーなどで代替するのは不可能である。事故を起こした原発は40年前の設備であり、新しい原発は耐性も相当改善している。智慧を集めて現実的に対応すべきである。日本は原発事故の後アメリカから支援の申し出があったのを断った。日本のデータが流出することなどを恐れたのかもしれないが、我が国は外に対してあまりにも閉鎖的である。インドネシア等の介護師の問題もわざわざ排除するような試験を課している。なぜもっと多様な人材を使おうとしないのか。官僚にも任せるべきところを任せ、幅広い人材を活用していくべきだ。それをしていれば今日の状況はもっと良かったはずだ。

日本の最近の衰退の原因のひとつは社会保障制度にある。50年余り前の人口構造を背景にできた制度を使って今日の状況に対応しているため、他の予算を削って毎年1兆円もの経費を追加的に注ぎ込まねばならず、これでは社会に活気は出てこない。消費増税だけでも足りないので制度の合理化も必要である。

安全保障問題をはじめ、国際関係も重要である。TPP に関してもこれを選択しないという方針は日本にとってあり得ないものだ。世界の流れをよく見るべきで、農業を守るだけの視点で考えるべきでない。アジア太平洋地域の発展の中で日本が利益を得ていくことが重要で、自らこの地域の流れから仲間外れになるようなことをすべきではない。フォーブス社が調査した、この地域で最も収益が高い50社のリストを見ると、2005年には日本企業の数が断然第1位だったが、2011年には日本企業は上位から完全に姿を消した。アンチビジネス的な政策や制度、自由貿易協定(FTA)の流れに遅れていることなどが影響している。日本は得意な技術や資質を生かし新しい分野を開拓して行かなければならない。優秀な人材は多く、日本人の現場力も極めて高い。多様な人材を活用すべきである。これからの日本にとって最も必要なことは、「多様化」だ。世界各国の秀れた才能と考え方を国づくりに生かしていかなければならない。

 

話を聞いていると、幅広い氏の見識と行動に感銘を受ける。経験に基づいた具体的な話が多く、日本の社会状況や政府の対応への批判にも説得力がある。日本の進むべき方向にいくつかの示唆があったが、誰もが日本には良い指導者は出ないのか、と切実に考える。講演後の質問でリーダーの資質や在り方などについて問われ、岡本氏は野田首相の姿勢を評価しつつも、まだすぐにはリーダーが出てきそうにない状況を示唆しつつ、大阪維新の会代表の橋下大阪市長に依頼されて行っている同会での講義の経験を踏まえ、日本の若手に優秀な人材が多いことを述べた。日本のこの危機を乗り越えるには、やはり指導者が自分の見識と信念に基づいて進むべき方向を示し、あらゆる人材を糾合してその方向にまとめていく力だ。そういう人がいないわけではないが、現実にそういう人が政治の表舞台で活躍できる状況は現出されていないのが問題なのだ。

次回のサロンは、7月10日に作家であり元外務省主任分析官の佐藤優氏に、「日本の閉塞感をどう打ち破るか」と題して話していただく。乞う、ご期待。

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